特に誰EDとは決めていませんが…、誰かとEDを迎えた後の日常の一コマ。
【0203】
「お願い事をしながら丸かぶりするのがお約束なのよー。幸運が逃げちゃうから食べ終わるまで喋らないでねぇ」
そう言ってヨシエさんが差し出したのは、カラフルな具材がぎっちりと詰まった巻き寿司だった。
「太っ…、こんなに沢山はちょっと……」
現在の時刻は14:00になったばかり。羽賀さんの後に昼休憩に入った俺は、ついさっき昼飯を食べたばかりで、つまりまだ空腹には程遠い状態だ。
そこにこの量を入れるのはかなりキツいのでせめて半分にして欲しかったんだけど、ヨシエさんは、
「ダメダメ、そんな事したら縁が切れちゃうじゃない」
と、許してはくれなかった。
ヨシエさん曰く、日本の伝統的な行事の一つらしい。でも、うちの婆ちゃんも俺が子供の頃は時節の行事をマメにやってた方だと思うけど、こんなの食べさせられたことないんですが。
尻込みしつつ上目遣いでヨシエさんを見る。ヨシエさんは、妙にキラキラした目で俺を見ていた。きっと味に絶大な自信があるんだろう。……食べきらないことには店から出してくれなそうだ。
まぁ、生クリームたっぷりのケーキまるごと1ホールよりはマシか。
荷物を預けて、早く帰らないと羽賀さんに悪いし。
覚悟を決めた俺は、長方形の皿に載せられた黒い棒状の塊を手に取った。
それは想像以上にずっしりと重く、茶碗何杯分使ってんだ?と背筋が寒くなる。
丸かぶりしろと言われていたので、俺はそれを両手で縦に持ち、大口を開けて噛り付いた。
「んぐ……」
「どう?美味しいかしら?」
頬張った分を懸命に咀嚼していると、ヨシエさんに味の感想を求められた。つか、食べきるまで喋っちゃいけないんじゃなかったっけ?
なので、大きく頷くと、ヨシエさんはとても嬉しそうに微笑んだ。旨いのは本当のことで御愛想じゃない。ただ量が……ハンパじゃないんだ。
それでも、食べ続けていればいつかは無くなる。
咀嚼しては飲み込むことを延々繰り返して数分後、太巻きは全て俺の胃に納まった。
「ごち、そうさま…でした……」
「はいはい、お粗末さまでした。持ってきた荷物は受付け済ませておいたわよ」
カウンターに置きっぱなしになってた荷物は、いつの間にか集荷の籠の方に移動させられていた。ってことは、俺の任務は完了したわけで、これ以上引き留められないようさっさと退散するに限る。
「あー、お願いします。じゃ俺戻りますね。まだ仕事あるんで」
「あらそう?福豆もあるのよ?持って帰る?」
ヨシエさんは心底残念そうに眉を寄せながら、カウンターの下から何かを取り出そうとしたけど、丁寧に断った。
蓮が入ったバッグを抱え直し、店を出るべく踵を返す。
「でも、やっぱり蒼葉ちゃんも男の子よねー。お寿司、太く作りすぎちゃったかしらと思ったけど、簡単にぱくっと咥えちゃうんだから」
「あはは……、や、まぁ…あれくらいの太さなら慣れてますんで」
ヨシエさんは目を丸くして首を傾げた。
何故に、どう慣れてるかは…ちょっと言えない。
詳しい事を訊かれる前に、俺は慌ててデリバリーワークスを後にした。
END.
お約束?の恵方巻きネタを。
20130203