【Shall we become a family?】6P


「そうかなー。ちゃんと直した筈なんだけど……」
『気にすることはない。修理は申し分ないほどに完璧だった』
 すかさずトリがフォローに回った。
「お前は誰のオールメイトだ」
『ん? 俺はミンクのオールメイトだが、忘れたのか?』
「だったら何でそいつに付き纏っている」
『オールメイトの本能。とでも言っておこうか。オールメイトとしての本分を果たすためにはパフォーマンスを維持することが重要だ。蒼葉の傍にいれば、些細な障害でも丁寧なメンテナンスを受けられそうだからな』
「……以前はこんな屁理屈を捏ねるようなヤツじゃなかったぞ。何をした?」
 苛立ったミンクが蒼葉に猜疑の目を向けると、蒼葉が何かを言う前に、オールメイトらが口を開く。
『蒼葉が、トリに特別な何かをした形跡は皆無だ』
『俺たちの性格・認識の設定は、学習によって絶えず変化するものだ。別におかしなことではないだろう』
 いよいよ渋い表情になったミンクと、平然と構えているオールメイトらを交互に見た蒼葉は、込み上げてくる笑いを堪えきれなくなり、吹き出してしまう。
「ぷ……あははっ! お前ら、喧嘩すんなよなー」
 余程腹に据えかねたのか、ミンクは短く唸ってから舌打ちし、体を曲げて笑い続ける蒼葉を置いて木立ちの奥に姿を隠してしまった。
「ははは……あ? へ? ミンク?」
 気付いた蒼葉は目尻に滲んだ笑い涙を拭いつつ、ミンクが消えた方角を振り返る。
『放っておけばいい。気が済めば、そのうちに戻ってくる』
「そういうワケにはいかないだろ。第一、俺が困る」
 主持ちのオールメイトとしてはいささか問題のある発言をやんわり窘めてから、蒼葉は軽く頭を小突いてトリをスリープモードに落とした。
 そして、蓮に留守番を任せ、自分はミンクの後を追って森に分け入る。ミンクはすぐに見付かった。
 針葉樹の大木に背を預けて煙管を吸っていたミンクは、小枝を踏む足音に気付いて蒼葉に一瞥を投げたが、言葉はない。
 他者を拒む様子ではないと見てとった蒼葉は、近付き、肩が触れるか触れないかの位置で同じように木の幹に背を預けた。
 ミンクは、吐いた煙が風の加減で蒼葉のほうへ流れていくと、煙管を振って火皿の中身を捨てる。
 森林火災を警戒してか、煙る葉を執拗に踏み躙るのが一段落するのを待って、蒼葉はミンクに話し掛けた。
「アンタ、家族にヤキモチ焼くのおかしい」
 声に揶揄うような響きが含まれていたので、非難されているわけではないとは分かったが、聞き捨てならない言葉が耳に引っ掛かって、ミンクは憮然として蒼葉を見る。
「家族? ヤキモチ? 何言ってんだテメェは」
「え? 俺ら家族みたいなモンだろ?」
「オールメイトどもまで数に入れるのか」
「入れるだろ。当然」
 即答され、そう言えば蒼葉は、オーバルタワーの警備システム破壊プログラムを仕込む際にも、オールメイトを物として扱うことを嫌っていたと思い出した。あの時は、単に物に対して過度に感情移入する性質なのかと考えていたが、人工知能による疑似感情にも魂を感じ、生命のありようの一つとして認めているのならば、物ではなく、家族として扱おうとするのも理解できなくはない。
 百歩譲ってそこまでは認めたとして、オールメイトを相手に回して嫉妬していたと言われるのは心外で、強く否定すると、蒼葉は面白くなさそうに口を尖らせる。
「しかし、お前がヤツの修理に掛かりきりになってる間は手持無沙汰でさすがに参った。ロクに寝もしねぇで、そこまでする意味はあるのかと、何度か言い掛けもした。物はいつかぶっ壊れるもんだ。なのにお前は、壊れたという事実を前にしても、諦めずに抗うだろう。それが正直分からねぇ。……感謝してねぇわけじゃないがな」
 真顔に戻った蒼葉は、考え込むように視線を落とした。
「俺の中に【壊す力】がある所為…なのかな。壊すのも、壊されるのも簡単だからこそ、壊したくないし、直せるものならどうにかして直してやりたい。今回頑張った理由は、それだけじゃないけどな」
「理由?」
「……アンタは家族を亡くしているから、それがどんなに大切で、失ったら2度と取り戻せないものなのかを知ってるだろ? だから、ずっとアンタと一緒に居て、家族も同然だったトリは絶対に直してやらなきゃいけないって思ったんだ。俺自身、トリがいなくなったら嫌だってのもあったけど、一番は、アンタの手許からは、もう何一つ失わせたくないって思ったから……」
「……」
「まぁ、それで当の本人を放置してたんじゃ世話ないっつー話なんですケド」
 蒼葉の声音が、突然おどけた調子に変わった。
 片足を振り上げた反動で大木の幹から離れ、くるりと身を翻してミンクと向かい合い、次はどうするものかと静観していると、胸に飛び込んでくる。
「ここんとこ、アンタのこと放ったらかしにして悪かった。埋め合わせさせてくれねーかなっつーか、俺がしたい……っつーか……ダメかな?」
 胸を打つ言葉を吐いた同じ口が、舌の根も乾かぬ間に色めいた誘いを掛けてきた。
 つい先日は一つのベッドに寝ていたというだけで慌てふためいていたくせに、白昼から行為をほのめかすのは平気だという、その神経が分からない。
 こういった起伏激しい忙しなさと時折垣間見えるしたたかさに、ミンクは実のところ未だ完全に慣れることができずにいる。だが、翻弄されるばかりにも関わらず、不思議と悪い気がしないのは、その存在に救われていると何処かで感じているからだろう。
 次に何をしでかしてくれるか、楽しみにしている自分に気付くこともある。
 黙ったまま動かないミンクの返事を、蒼葉は頬を微かに染めながらも、神妙な面持ちで待っていた。
 この頭の奥には、どんな知識や価値観が眠っているのかと考え、それは一緒に過ごすうちに、おいおい明かされていくに違いないと思うと、自然に口端が上がってくる。
「ミンク?」
「ったく、真昼間から何言ってやがる。まぁ、埋めてくれるというなら付き合うが?」
「……アンタ、素直じゃねーよな」
 ぼやきつつも、蒼葉は嬉しそうに顔を綻ばせる。
 背伸びして近付いてくる唇に、ミンクは自分のそれを重ねあわせた。


                                  END.



 子供が病気になるとお母さんはそっちに掛かりきりになっちゃって、お父さん放置余裕だよね。って言う。
 オールメイトと言うか、メカスキーの妄想暴走。おそらくは書いた当人しか楽しくないんじゃないかとは思いますが、もし萌えツボが合う方がいらっしゃったら嬉しいです。
 オールメイトに関して、自己流解釈と妄想設定多めな点はご容赦いただければと思います。オールメイトの構造やプログラミング的なことは謎が多くて、一応某有名ペットロボットの分解レポなどを読んでみたものの、自分の頭の弱さのせいで活かしきれないのが非常に残念。未来のモノだから便利にできてんだよ細けぇことは…

※蛇足ながら用語解説みたいなものを。
逆コンパイル/普通、プログラムは実行形式とも呼ばれる機械が理解できる状態(マシン語)にされて配布されてますが、人間がこれを理解しようとすると大変なことに。プログラムを作る段階では人間向けのプログラミング言語を使用することが多いので、コンパイラと言うソフトを通して実行形式にするわけです。(インタプリタって言うそのまま使える言語もあるけど実行用の別ソフトが必要だったり遅かったり) 逆コンパイルとは字の通り、人間が理解できる状態に戻すこと。リバースエンジニアリングとか言われます。大概の場合、発売元から禁止されてる行為。逆アセンブラと悩みましたが、アセンブリ言語(OS設計とかに使う)で書いてるとも限らないものはコンパイルだろ。とその方面に詳しい家族から突込みが入ったのでこの言葉を使うことにしました。
小型の測定器/オシロスコープ的なもののイメージ。回路に電気信号を流して、正常動作しているかどうか等を調べられる機械と思っていただければ。

 ご感想などいただけましたら幸いです。
                                  20120603


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