誰ルートでもないパラレル世界の碧島でのミンクさんと蒼葉のお話。
ステラワース特典ネタです。
【一緒に!】1P
ミンクのオールメイトであり最も長い時間行動を共にしているはずのトリが、その主が食事する場面を一度も見たことがないと言うのは、少々意外ではあったものの、反面納得もできる話だった。
紅雀のパートナーであるベニ主催(?)の『オールメイトの所有者に関する話し合い』とやらから蓮を連れ帰って、その内容を聞き出した俺は、眉間にしわを寄せたミンクの厳めしい顔を思い出していた。
いつも張り詰めた空気を漂わせているミンクには、生活感ってモノが乏しい。
他人とも距離を置き、狎れ合うことを避けているようだから、きっと食事する時も一人なんだろう。
栄養補給ができれば良いとばかりに、缶詰か、軍用の保存食みたいなので手早く済ませてしまっている姿が容易に想像できる。
人の好き好きではあるんだろうけど、そういう飯の食い方は感心できない。そう思って蓮に同意を求めたのだが、それは俺の想像であり、実際はどうだか判らないのだから、決めつけるべきではないと逆に窘められてしまった。
『しかし、確かに、ミンクがスクラッチのメンバーと食卓を囲んでいる姿を想像するのは難しいな』
「だろ?」
半分同意のような返事を得た俺は、ベッドに後ろ手を突いて反っくり返っていた体を跳ね起こす。スプリングが軋んで、布団の上に載っていた蓮が大きく揺れた。
「問題は、ミンクが相棒のトリにそういうところを見せないってことだ。いくらなんでも他人行儀が過ぎやしないか?」
『オールメイトの扱いについてはトリも納得づくのようだから、彼らはあれで良いのだろう』
崩れてしまった居住まいを正しながら蓮は言った。
「うーん……」
『ヨソはヨソ。ウチはウチ。という言葉もある。蒼葉の思うところも理解できなくはないが、逆にオールメイトは道具として扱うべきだと強要されたら、蒼葉は反発せずにいられないはずだ』
「傍から口出すモンじゃねーですよってか」
『そういうことだ』
……いや、俺が感じてた苛立ちは、そーゆーのとはちょっと違うんだけど。
心の中で呟きつつ、でもそれを上手く言い表せなくて、俺は溜息を一つ吐き、腰掛けていたベッドへ仰向けに倒れ込んだ。
今度は見て判るくらい宙に浮いた蓮だが、文句を付けることもなく、けれど座り直さずに丸くなる。
俺が黙っていると、いつしか蓮はスリープモードに入ってしまった。
その数日後の夕方。
運送屋のデリバリーワークスに荷物を預けたらそのまま直帰していいと羽賀さんに言われていた俺は、青柳通りから一本奥に入った道をぶらぶらと歩いていた。
今日は婆ちゃんの帰りが遅くなることが予め判っている。
夕食を外で摂るか、家に帰って適当に何か作るか。
さっきからそればかりを考えていた。
迷ってる時に限って、ヨシエさんもクララも俺と蓮を引き留めてくれないし、紅雀からの連絡もない。
腹は減ってきてるのにどうにも決められなくて、途方に暮れつつ顔を上げると、見覚えのある長身が目に入った。
「ミンク?」
名前を呼ぶと、細く薄暗い路地から出てきたばかりのミンクはこっちを見て僅かに目を見張った。知り合いに突然声を掛けられるとは思わなかったんだろう。
駆け寄ると、逃げこそしなかったが、あからさまに「面倒なヤツに捕まった」という表情になる。
「何の用だ?」
低い声で脅すように問われ反射的に一瞬身が竦んだ。だけど負けじと胸を反らした。
「なぁ、時間ある? 飯、一緒に食わないか?」
外で食べるにしても家で食べるにしても、一人じゃつまらないと思っていたところに現れてくれたのは都合がよかった。しかも、つい先日に話に上がった当人なんだから、誘わない手はない。
「断る。なんでテメェと飯食わなきゃならねぇんだ。理由がねぇ」
「知り合いなんだから、別におかしなことじゃないだろ」
つか、一緒に飯を食うだけのことに何で理由が要るんだよ。
「急いでるっつーんなら諦めるけどさ、そうでもなさそうだし。付き合ってくれてもいいだろ? それとも、子供みたいに好き嫌い多くて、誰かと飯食うの恥ずかしーとか?」
「んなワケあるか」
「だったらいーじゃんか」
食い下がると、ミンクは大きな溜息を吐いた。
「一緒に飯を食うってことは……」
しかし、ミンクは最後まで言わなかった。というか、言えなかった。
「待ちやがれ! シカトこいてんじゃねぇぞテメェ!」
間近で上がった怒声に、ミンクも俺も驚いて振り返った。
でもそれは、俺たちのどちらかに向けられたものではなく、すぐ横を歩いていた男に向けられたものらしい。
「人様にぶつかっといて一言もなしかァ? なめてんのかゴルァ!!」
「ああ?ちょっと触っただけだろうがよ。肩の骨でも外れたか? ずいぶんと貧弱なこって、おカワイソウになー」
「んだとテメェ!」
ごくありがちな事が原因の、ごくありがちな諍いだった。定型句のような遣り取りが交わされた後、取っ組み合いの喧嘩になる。
場所柄、ミズキのところか、紅雀のところの人間の可能性もあったけど、どちらも見知った顔ではなかったので俺は胸を撫で下ろした。ミンクの知り合いでもないようなのでその場を離れようとしたが、さっそく集まりはじめていた野次馬に囲まれていて、抜け出そうにも人の壁に阻まれてしまう。
「通してくれ、外に出るから!」
押してくる流れに逆らい、俺は声を上げながら無理矢理に体を捻じ込ませた。隙間が空いたところでミンクの袖を掴んで引くと、ミンクは案外すんなりと後についてくる。ミンクとしてはこの状況は不本意なはずで、少しでも早く脱出するには、(悔しいけど)比較的小柄な俺が道を開くほうが効率が良いと踏んだようだ。
確かにその作戦は間違ってはいなかったと思う。でも、人が集まるスピードのほうが早すぎて、いくら人の波を掻き分けてもなかなか外に出られない。
背後から「……暇人どもが」とミンクが毒吐くのが聞こえて、内心同意しつつも今度はミンクが誰かに因縁をつけられるんじゃないかとハラハラした。
そうでなくても、ミンクはリブスティーズの頭なんだし、顔を知ってる奴から喧嘩を売られることだって十分に有り得る。
幸い誰かに見咎められることはなかったけど……、離脱に手間取っている内にもっと厄介なのが来てしまった。
突然、ガピー!!と、耳をつんざくハウリング音が響き渡る。
「貴様らァ! 集団で何を騒いでやがる!! 喧嘩か? ライムかァ?」
やべ、悪島?!
それまで好奇心と悪意ある期待感が入り交じった熱気で満ちていた裏通りが、途端に騒然となった。
慌てたのは俺も同様で、こんなところで警察に捕まってなるものかと、右往左往する野次馬らの向こうに逃げ道を探す。
逸れないよう、ミンクの服の袖を掴む手には力を込めた。それがいつの間にか俺の手首がミンクに掴まれる形になっていて、ぐいと強く引っ張られる。
. . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . next(2P)