【一緒に!】3P


「時にアンタはさ、いつも誰と飯食ってんの? スクラッチのメンバーと飲みに行ったりなんてこともあるのか?」
 ミンクは、すぐには答えてくれなかったが、やがて重い口を開いた。
「アイツらと飲みに行ったことなんざねぇよ。飯はいつも一人で食う」
「あー、やっぱり」
「何が『やっぱり』だ」
「トリが、さ、アンタが食事してるとこ見たことないらしいから、もしかして誰とも一緒に食わないんじゃないかなって」
「アレが何時そんな事を言った」
「直接聞いたわけじゃないけどな。オールメイト同士で集まった時にそう言ってたって、蓮から教えてもらった」
「……あのお喋りが。いつの間に…」
「もしかして、アイツらが連絡取り合って集まってたの、知らねーの?」
「……」
 本当に知らなかったらしく、ミンクは渋い表情をした。相棒なのに大切にしてやらないからそういう事になるんだ。
「なぁ、一人で飯食って旨い?」
「体を維持するのに必要な栄養素が摂れりゃいい」
「その言い方からすると、日頃ロクなモン食ってねーだろ? そうだ、今度ウチに飯食いに来いよ! 婆ちゃんが作る飯、見かけはフツーの家庭料理だけどそこらの飯屋なんかよりずっと旨いんだぜ。理由がねぇっつーのはナシな。俺がアンタに食わせたいから。ってのが理由だから」
 ミンクは、またもすぐには返事をしてくれなかった。でもそれは、答えに迷うと言うより、唖然として言葉を失っているという感じだった。
「ホントなら、ここから出られたらすぐにでもウチに連れて行きてーくらいなんだけど、今日は婆ちゃん遅くなるんだよなー。だから今度、な?」
 いつもは一人で飯を食うと言うミンクを、是が非でも一般的な家庭の食卓に招いてやりたい。そんな使命感みたいなものに駆られて、我ながらちょっと強引かな?と感じるくらい押してみた。
 しつこく言うと怒られるかと覚悟したが、思わぬ言葉が返ってきた。
「……いずれ、な」
 聞き間違いかと思って、俺は高い位置にあるミンクの顔を、首が痛くなるほど頭を仰向けて見詰めた。
 仏頂面のミンクと視線が合う。
「間抜け面で見てんじゃねぇよ」
「なぁ、ホントに来てくれんの?」
「今日明日行くと言ったわけじゃねぇぞ。勘違いすんな」
「いつでもいいよ。そっか、来てくれるんだ」
 言葉にして反芻すると、じわじわと嬉しい気持ちが湧いてくる。
 にやけてくる頬はそのままに、カバンを引き寄せて先刻仕舞ったパンを出し、もう一度ミンクに差し出した。
「んじゃ、これ」
「あぁ?」
「ウチに飯食いに来てくれるってことは、俺と一緒に食うのが嫌だってわけじゃないんだろ? だったら、今一緒に食っても構わないってことにならねー?」
「屁理屈を……」
「アンタが食わないんなら、俺も食わねーから」
 大きな溜息を吐いたミンクは、とうに吸い終えていた煙管を振って火皿の中身を捨て、無造作に手を伸ばすと俺が掲げていたパンを攫っていった。
「……ったく、面倒臭ぇな」
「っへへ」
「チッ……」
 俺が笑うとミンクはまたも舌打ちしたけど、手にしたパンを投げ捨てたりはせず、ちゃんと口に運んでくれた。それを確認した俺も、ビニール袋の底に沈んでたクリームパンの片割れを引っ張り出して頬張る。
 元より大きいとは言えない菓子パンの、さらに半分ずつだから、食べ終えるのにそう時間は掛からない。ミンクも俺も、最後の一口を放り込んだのはほぼ同時だった。
 咀嚼していると、偵察に出ていたトリが戻ってくる。
 口の中の物を飲み込んだミンクが腕を伸ばすとトリはそこに舞い降りたが、主人の顔を見てふと首を傾げた。
『……?』
「外の状況はどうだ。ヤツらはこの近辺から引き揚げたのか」
 トリは何か物問いたげだったものの、ミンクが訊ねたことに答えた。
『ああ。かなりの人数を捕縛できたようで満足して帰っていった。界隈をぐるりと一周してみたが、上から見た限りでは残っている者もいないようだ』
「じゃあ、いつまでもこんな黴臭ぇところに籠ってる道理はねぇな。さっさと出るぞ」
 最後の一言は俺に向けられたものだったので、置いて行かれないよう慌てて立ち上がった。
 カバンを背負い直している間にミンクはさっさと出て行ってしまい、追い掛けようと足を踏み出したところへ、トリが来て肩に止まる。
「悪ぃ。今行くから」
『いや……。一つ訊ねても良いだろうか?』
「いいけど。何だ?」
『ミンクに何か食べさせたのか?』
「カバンの中にクリームパンが入ってたから、半分ミンクにやったんだ。俺だけ食うの嫌だったからさ」
『食べたのか』
「まー、ちょっと無理矢理だったけどな」
 心なしかトリが驚いたように見え、知る限りではいつも冷静なコイツにしては珍しいと思ったところであることに気付いた。
「あ! ごめん!」
『ん? どうかしたか?』
「お前、ミンクが飯食うところ見たことなかったんだよな? しまった、どうせならトリが戻ってきてからにすりゃ良かった! ほんと、ごめんな」
『何故お前が謝る必要がある? オールメイトに気遣いは無用だ。そもそも、俺はミンクが何かを口にしているところを見たいと言った覚えはない』
 そうは言われても、抜け駆けしてしまったようで気が咎める。
 トリにもミンクが食事する様子を見せてやるにはどうしたらいいのか。考えながら建物の狭間を来た通りに引き返すと、路地に出たすぐのところにミンクが立っていた。
 待っていてくれたようではあるけど、しかし無表情に俺の顔を一瞥しただけですぐに背を向け歩いて行ってしまう。
 何も言わないので、背を向けたのは「勝手に帰れ」なのか「ついてこい」なのか、意図を量りかねた。
 一瞬迷いはしたものの、俺はミンクの後を小走りで追った。
 もう一度、ダメもとで夕飯に誘ってみるつもりだ。一旦は突っ撥ねられたけど、一つのパンを分け合って食べたことで少しはガードが緩くなっているかもしれない。
 肩が触れるほど近くに並び、ミンクの視界に入れるよう前屈みになって覗き込む。
「……まだ何か用があんのか」
 言葉は相変わらずキツいけど、口調がちょっと柔らかくなってる…気がした。
「あるよ。アンタに声掛けた件がまだ残ってる」
 一人で飯を食ってもつまらないからと、たまたま出くわしたミンクに白羽の矢を立てたのがそもそもの発端だった。
 知ってる顔なら誰でもいいか程度だった軽い気持ちは、今、どうしてもミンクと夕飯を一緒に食いたい。に変わっている。
 トリだって主人の知らなかった一面を知ることができるんだから、悪い話ではないはずだし。
 ファミレスでも、なんなら立ち食い蕎麦でも、場所はどこだっていい。
 どうしたらミンクをその気にさせられるだろうかと、思案しながら話し掛ける。
「夕飯の話なんだけどさあ……」


                                  END.

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誰ルートでもないパラレル世界の碧島でのミンクさんと蒼葉の話。カプ物とは到底言えないような日常話なので、書いてる本人しか楽しくないかもな〜と思いつつ、書きたいままを書き散らしてみました!(えばるとこではない)
相思相愛になってからのいろいろを想像するのは勿論大好きなのですが、恋愛未満のモゾモゾしてる期間も捨てがたいので、こっちの碧島での話も続ける予定です。よろしかったらお付き合いいただけますと幸いです。
                                  20130215