【Don't be worried.】2P
頬を紅潮させて目を逸らした蒼葉を、ミンクは静かに見おろして言った。
「そんなに俺が信用ならねぇか」
言葉こそ荒かったが、声音は優しかった。
「信用はしてる。でも、心配だった。仕事先で何があったか俺には分からないし、帰ってくる途中で事故ってるかも知れないし。連絡の一つもあったらきっと、こんなに不安にはならなかったと……思った」
ミンクは蒼葉の言葉の意味を推し量っているようだった。
やや間を置いてから口を開く。
「そういや、まだ互いの連絡先を交換していなかったな。遅くなる時にはメールの一つでも送ってやりゃあ、お前も気を揉むことなく先に休めるか」
蒼葉は恨めしげにミンクを睨み、口を尖らせた。
「アンタ誤解してる。俺は先に寝たくて言ったんじゃない。さっきも言ったろ? アンタが帰ってきた時に出迎えたいから、それまではちゃんと起きてるよ」
「帰宅時間が分かっていても寝ずに待ってるってのか? それじゃ知らせておく意味がねぇだろうが。バカか?」
「無意味じゃない」
声を強めて言うと、呆れていたミンクの表情が僅かに険しくなる。蒼葉は怯まぬよう気を奮い立たせながら、金色の瞳を見詰めて言った。
「帰ってくる時間が分かるってことは、後どれだけ待っていればアンタに会えるか分かるってことだから……、意味はあるよ」
「……」
ミンクは目を逸らし、低い呻きを漏らした。
「俺、なんか変なこと言った……?」
「自覚のねぇところが最も性質悪ぃな」
「なんだよそれ」
「自分で考えろ」
不機嫌も露わに吐き捨てたミンクは、不意にソファから立ち上がった。蒼葉が釣られて腰を浮かすと逞しい腕に捕えられ、瞬く間に担ぎ上げられる。
思いがけずミンクの腕に尻を預ける格好になってしまった蒼葉は狼狽え、落とされないようコートの肩にしがみ付いた。
「ミンク、何やって……!! なぁ飯は? 食わねぇの?」
「後でな」
短く答えたミンクは蒼葉を抱えたまま居間を出た。廊下を大股で通り抜け、自分の部屋へ直行する。いつもは何事においても過保護なほどに注意を促すミンクが、今日に限ってドアを潜る際に何も言わなかったため、蒼葉はうっかり上枠に頭をぶつけそうになった。
しかし、苦情を言う隙もなくベッドの上に放り出される。
ミンクがコートを脱ぎ、次いでシャツの前立てのボタンを外しはじめればその意図は明白で、蒼葉を戸惑わせる。
「アンタ、疲れてたんじゃねーのかよ?」
しかも、いつどうしてその気になったかが分からない。
シャツの前を肌蹴させ、ベルトも抜いて用意を済ませたミンクは、半身を起しかけていた蒼葉を押し戻すようにベッドの上に乗り上げてきた。一人分の面積に二人の荷重が掛かったことで、スプリングがぎしりと軋む。
顔の両脇に手を突いて完全に覆い被さったミンクは、微かに笑みを含んだ声で気怠げに言った。
「綿のようにという比喩が大袈裟じゃねぇ程度には疲れているな。だが、このまま眠れると思うか?」
「んな事、訊かれたって……」
情欲を湛えた金色の目は大型の肉食獣のようで、下から見上げると、体格差も手伝ってか捕食される獲物になった気がして、無意識に身が竦んでしまった。
真上にいるミンクの長い髪が蒼葉の顔を囲むように垂れて視界を塞いでいるから、余計に囚われたという印象を与えるのだろう。
本能からくる危機感と、ミンクを知っているが故の期待感がない交ぜになって蒼葉の熱を上げる。
鼻から軽く息を抜いたミンクは、片肘を折り、下に敷いた蒼葉に体重を載せながら身を沈めてきた。
もう一つの手を蒼葉の耳下から差し込み、少し上向かせて唇を重ねる。
口付けは最初から飛ばし気味だった。
いつものようにミンクの舌を招き入れてしまった蒼葉は、いきなり絡め取られた舌を呼気すら奪う勢いで蹂躙され、体を震わせた。
息継ぎのままならぬ苦しさから蒼葉が喉の奥で呻きを上げても、その反応がさらに興奮を呼ぶのか、ミンクは蒼葉を離そうとはしない。
時折強く押し付けられる股間の固さで、ミンクがどれほど高ぶっているかが分かった。
蒼葉のそこも痛いほど張り詰めている。いつになく乱暴に扱われていることで、却って劣情を刺激されたようだ。
散々に貪ってからミンクは顔を上げた。
体も起こし、荒い息を吐きながら、性急に蒼葉の服を脱がしに掛かる。激しい口付けに朦朧となっていた蒼葉は抗うこともできず、すぐに全ての衣類を剥がれてしまう。
露わにされた白い裸体を眼下に見おろしたミンクは唇を軽く舐め、ベッド横のテーブルから件の丸い木製ケースを取り出した。
中のクリームをたっぷりと指に掬うと、力の抜けた蒼葉の脚を開いて窄まりに塗りつける。
・・・
いわゆる、疲れ○○ってヤツか?
十分に睡眠を得た脳に、ふとそんな言葉が閃いた。
自分の発想に赤面したものの、あながち外れてはいないような気がする。それくらい、ミンクの求め方は尋常じゃなかった。
行為の後、ロクな始末もせずに蒼葉を背後から抱き込んでミンクが眠ってしまったのも珍しい。それだけ疲れていたのだろう。
洗った髪の水分をタオルに吸わせながら、蒼葉は廊下を過ぎキッチンに入った。
ミンクはまだバスルームに居る。蒼葉の体を隅々まで丁寧に洗ったミンクは、「先に上がっていろ」と、蒼葉をバスルームから追い出してしまった。
背中の一つも流してやりたかった蒼葉としては不満だったが、途中で腹の虫を鳴かせたミンクのために、作ってあった食事を温めておくことにする。
野菜を蒸しなおすのは正直どうかと思ったが、手軽に加熱できる機械がないので仕方ない。食味が落ちていても、事情を話せばミンクも文句は言わないはずだ。
鍋のホワイトソースを木べらで混ぜつつ温めていると、風呂を終えたミンクもキッチンに来た。
「もうちょっとで食えるから。座って待っててくれよ」
しかし、ミンクはテーブルへは向かわず蒼葉の横に並ぶ。蒼葉の前に一枚の紙片を差し出した。
「何?」
「俺が持っているコイルの番号とメールアドレスだ。何かあったら、どちらでもいい。ここに連絡しろ」
受け取った紙片を見ると、確かに数字列と文字列が書いてある。
「ありがとな、ミンク。飯食ったら、すぐに俺のコイルに登録するから!」
紙片をズボンのポケットへ大事そうに仕舞った蒼葉は、少し迷ってから上目遣いにミンクを見る。
「その……俺のコイルの番号とか……」
「なんだ。教えねぇつもりか? こっちから連絡とれねぇだろうが。遅くなる時には連絡を寄越せと言ったのはお前だろう?」
「連絡、くれるんだ?」
起きて待っているのなら連絡しても意味がないと言われたので、寄越すつもりなどないかと思っていた。
「先に寝やしねぇバカなんざ放っておきたいところだがな。不安がらせるのは本意じゃねぇよ」
ミンクは柔らかに微笑んで、まだ湿っている蒼葉の髪を撫でた。
END.
before(1P)
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5/4のSCCにて配布した無配ペーパーに掲載したお話です。いつも(雲の切れ間〜のほうのシリーズとか)は蒼葉がけっこう強気なのですが、
リコネ蒼葉は想像以上に健気でミンクさんも糖度増し増しだったので、その辺りを気遣って書いてみました。でも難しい… 蒼葉が作ってた夕飯はアニメイトカフェの「ミンクのお夕飯風」から。これ書いた時点ではまだ食べていなかったので、アニカフェ行った方から調理法教えていただきましたw
20130506