【Shall we become a family?】3P


 女子供が喜びそうな外見に似合わず、持ち主よりも余程しっかりしているとは知っていたが、オールメイトに労をねぎらわれるのはやはり妙な気分で、ミンクは足元の仔犬を胡乱げに見た。
「アイツは、ずっとああなのか?」
『ミンクが出掛けてからは、まだ一度も席を立っていない』
「……」
 オールメイトの小さな体を蹴飛ばさないよう気を遣いつつ前を横切り、蒼葉の傍らまで行くと、手にしていた紙袋をモニタの横にこれ見よがしに置く。
 それでようやく気付いた蒼葉が、夢から覚めたような顔でミンクを見上げた。
「あ……?」
「食い物を買ってきた。少し休め」
「ああ。……うん」
 生返事ながらも掛けられた言葉の意味は理解していたらしく、蒼葉は首を左右に傾けて首筋を解しながら椅子を引いた。そして、窓の外を見遣り、目を丸くする。
「うわ暗っ! いつの間に?!」
 時間の経過を感じられないほど集中するのは結構だが、人の出入りすら察知できない無防備さは、さすがにどうにかならないものかと、ミンクは密かに頭を悩ませる。そんな人の気も知らず、蒼葉は小さく鼻をひくつかせると、匂いの元である紙袋を開けて歓声を上げていた。
「うは! ハンバーガーか、久し振りだなー」
 食べていいかと訊ねた蒼葉は、ミンクが頷いたのを見て、すぐに1つめに噛り付く。
 腹が空いていたのか瞬く間にそれを胃に収め、2個めの包みに手を伸ばしながら、修理の進捗状況を話しはじめた。
 ミンクのコイルから基本的なデータを吸い出し、修復プログラムのほうに反映させる作業はほぼ終えていて、あともう少しで完了するとのことだった。それが一段落したところでトリのカバーを外して、本格的な修理に入るのだと言う。
 蒼葉は、2つのハンバーガーの他にフライドポテトも摘んでようやく腹が満足したようで、洗面所で油に汚れた手を洗ってくると、食休みもせずに作業へ戻っていった。
 先刻の言葉通り、キーボードを叩く作業はさほど時間が経たない内に終わり、ひとまず用が済んだそれを脇に押し遣ってスペースを開けた蒼葉は、工具を出してトリの分解に着手する。
 その手付きは慣れたもので、トリが鳥の姿を模した外殻と、それを制御するコア部分とに分けられるまで、さほど時間は掛からなかった。
 蒼葉はまずコア部分を目視で点検し、目立った問題は無いとみると、カードスロットからオールメイトの基本プログラムや個性などが記録されているチップを抜き出して、PCに接続されたカードリーダーに飲み込ませた。バックアップツールを立ち上げ、システムのコピーを作成する。
 彼のオールメイトが言うだけのことはあって、一連の作業の様子は、慎重ではあったが手際が良く、迷いがなかった。
 門外漢には手伝いようがなく、せめて邪魔をしないよう、ミンクはベッドに腰掛け、黙って見守るしかない。
 暫くしてからふと思いついて、備え付けの簡易キッチンで湯を沸かし、コーヒーを淹れてみる。
 カップを手に振り返ると、外殻の可動部分に破損個所がないかどうかを確かめていたはずの蒼葉は、手を休めてミンクが来るのを待っていた。
「気を散らせたか……」
 やはり物音を立てるのは拙かったかと内心悔いたが、カップを受け取った蒼葉は笑顔を見せた。
「いや、蓮が教えてくれた。ちょうどいいから休憩しろってさ。ありがとな」
「礼を言われるほどのことじゃねぇ。……まだ掛かりそうか」
「今、逆コンパイルやってる最中だからなー。順調に進んでるかどうか見てなくちゃならないし、多分だいぶ時間掛かると思う。俺に構わずミンクは寝ててくれよ。なんなら電気消してもいいし」
「お前こそ、こっちを気にするな。眠くないから起きているだけだ」
「ふーん?」
 素っ気ない物言いに、 悪戯めいた眼差しが返される。
 急に居心地が悪くなったミンクは、コーヒーを一息に飲み干してカップを流しに放り込み、その足でバスルームに向かう。ほとぼりを覚ます意味も込めて若干長めにシャワーを浴びて部屋に戻った時には、蒼葉は再開させた作業のほうに熱中していて、周囲の物音が耳に届かない状態になっていた。
 次に蒼葉が動いたのは、夜明けに近い時刻だった。
 モニタや細かい機械部品を睨み続けた目が痛むのか、しきりに目元を揉みながら立ち上がった蒼葉は、オールメイトに2時間経ったら起こすように言い、覚束ない足取りで辿り着いたベッドにのそのそと潜り込む。
 囁くような小声の「おやすみ」に、ミンクが言葉を返すかどうか迷っている間に、蒼葉は寝入ってしまっていた。

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